20091129

Jacaranda



30になる誕生日。きれいなものが見たいと思った。
前の晩、みんなに嘘をついて(ごめんなさい。)、誰にも行き先を告げずに一人バスに乗った。北へ10時間。Graftonという小さな町へ向かう。Jacarandaという紫のきれいな花の咲く木を観ることが目的だった。バスの中で携帯の電源を切った。忙しい日々、人から離れて一人になることが30になる自分へのGiftだった。

朝方Graftonに着き、早速町のあちこちに咲くJacarandaを観ながら歩き始めた。
町で出会う人がやさしく声を掛けてくれること、通り過ぎる子どもたちが自然に挨拶をしてくれる。そんな見知らぬ町での見知らぬ人とのふれあいに心が温かくなっていく。都会では忘れ去られているこんな人とのふれあいが心にじーんと沁み入る。

雲一つない青い空、太陽が上がっていくに連れて日差しはジリジリ強くなった。
Jacarandaの木陰で休む。

Jacarandaは南アメリカはブラジルの花。ここ、Australiaでは10月から11月にかけてあちこちで鮮やかに咲き誇る。
Graftonでは1万本近くのJacarandaをあちこちで観ることができる。1880年代に何百もの種が植えられたそうだ。200年以上の命があるという。

「日本でいう桜だよ。」とAussieの友人は言っていた。
ゴージャスな紫色の桜に見とれてしまう。
Jacarandaは独特の香りがする。お花の甘い香りではない。
少し苦味のあるようなBitterな香り。
人間に例えると、大人は大人でも若い女性の香りとは違う、ミステリアスな女性の香りかもしれない。
夜になって、一人古い建物のレストランで夕食をとる。
私がいる間、レストランには、私一人だけ。
ゆっくりとした音楽とゆっくりとした時間が流れる中、一人ワインと魚料理を楽しんだ。
一人で食べる夕食に生まれて初めてたくさんのお金を使ってしまったけど、本当においしかった。食べ物に癒されることもあるのだと思った。
Wineを運んできたOwnerが、少し話したアルバイトの子に聞いて知ってか、“Happy Birthday By the way...” と振り向きざまに素敵な笑顔で言ってくれた。
そのスッとしていて、でもどこかやさしさを感じる雰囲気の彼女のおめでとうがなんとも嬉しかった。
たった一人の見知らぬ人がHappy Birthdayと言ってくれたこの誕生日。
自分らしい誕生日。私だけの特別な時間を過ごすことができた。嬉しかった。

次の日の朝方、シドニーに戻ってきた。
再び始まるだろう忙しさや、プレッシャーを思い出す。
でも、このバスを降りて一歩づつ、あのGraftonで見たJacarandaを思い出しながらとにかく歩こうと思った。
Jacarandaの花言葉は「名誉」。誇りを持って堂々と歩いていけますように。この花をいつも思い出そう。
忘れられない小さな町Graftonと紫のJacaranda。きっと何年経っても心に残る誕生日になるだろう。